臨界期とは?


 「猫の新生児の眼から外界の光を遮断し、
10〜14日間その状態を継続すると、猫は完全に盲目化する」という発表がありました。例え遺伝的に正常な視覚を持って生まれてきても、約2週間以内に光の刺激を受けないと視覚機能を喪失するというのです。
 これは、「視覚の臨界期に適切な刺激を受けなかったことが原因である」ということらしいのですが、ではその「臨界期」とはどのような時期のことを言うのでしょうか?

 動物はそれぞれ親から受け継いだ遺伝子を持っています。しかし、その遺伝情報は刺激がなければ正常に機能することはできません。例えば、先ほどの猫の場合、視覚に対する正常な遺伝子はあったものの、視覚に対する刺激が、ある「大切な時期」になかったため、視覚機能が失われたのです。また、最近カンボジアで10歳の時から行方不明だった少女が18年ぶりで見つかりました。彼女の場合はまだ詳しくは分かりませんが、「オオカミに育てられた少年」の場合、その少年は話すことは勿論、二足歩行も出来ず、手を使って食べることも出来なかったといいます。彼に、そういうことを身につける大切な時期に教えることも手本を見せることも出来なかったことが理由と思われます。

 その「大切な時期」というのが「臨界期(感受性期)」と呼ばれる時期です。臨界期は、脳の中で覚えたり感じたりする神経回路(ニューロン)が、外からの刺激により集中的に作られたり、回路の組み替えが盛んに行われる時期です。また、学習を成立させる最も感性豊かな限られた時期でもあります。「視覚の臨界期」「聴覚の臨界期」など、それぞれの動物種のそれぞれの機能には、一生に一度しかない絶対期間の「臨界期」が存在するのです。

 脳ではインプットが少ない神経回路は脱落してしまい、インプットされる情報が多いほど回路が強化されるというシステムとなっています。臨界期は、一生のうちで一度だけです。「臨界期」までに一度も使われなかった脳細胞は一生必要ないと判断され、臨界期を越えた時点から消滅していく運命となるのです。盲目になった猫は「視覚」の「臨界期」に適切な刺激を受けなかったため、脳(大脳皮質視覚野)の神経回路はその眼に対する反応性を失ってしまい、結果として盲目となったと言えます。このことを裏付けるように、遊び道具のない環境で育ったネズミに比べ遊び道具をたくさん与えたネズミの方が脳の神経回路は大変発達し、脳の重量も重くなったという報告もあります。

 人間の場合も同様です。「ことば」についての臨界期は、生後約6ヶ月位から神経回路の組み換えが始まり、12歳前後で終わるといわれています。また、五感の中では、聴覚が一番早く臨界期を迎え、胎児の頃からスイッチがオンになると言われています。他の音と比べることなく音の高さを特定できる「絶対音感」に関する「臨界期」は3〜5歳から9歳前後までであり、残念ながら幼少期にしか身に付けることができないとも言われています。

 例えば鳥が「さえずり」を得るためには、3〜6週間ほど親鳥や成鳥にずっとついて学習しなければなりません。もし仮に一定期間幼鳥の耳をふさぎ、模倣するための鳴き声が耳に入らないようにすると、その鳥は「さえずり」が出来ず、成長しても仲間集団には入れず求愛も出来ないことになります。「さえずり」に方言があると言われるのもそのためでしょう。先天的に備わっているものなら方言など存在しないでしょう。「啼き合わせ」のウグイスも上手なウグイスの声を聴かせて「さえずり」を覚えさせるといいます。またカモ類のヒナが生まれた直後に眼にした、動く対象物を親と認識するということも聞いたことがあるでしょう。模倣という自己学習によって動く対象物の後を追って歩くことを、動物行動学では「インプリンティング(刷り込み)」と呼びます。つまり動物が生まれ、生育する過程で特定の刺激に反応し、まるで印刷されたかのように環境によって行動を身に付けてしまうことです。

 障害児教育(特に精神発達遅滞児の教育)においてはレディネスという言葉がよく使われます。縦長の菱形は6歳で描くことが出来るといわれます。それが正しく描けないと平仮名の「く」が綺麗に書けません。また9〜10歳頃に考え方が抽象的統合的なものに変わるといわれています。その時期に相応しい指導をしなければ一生身に付かないという不幸な結果になるでしょう。適切な時期に脳に適切な刺激を与えるということは大変重要なことです。

2007/01

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