マンゴー
ある日、義兄が(その時はまだ結婚していなかったが) 沖縄土産に「マンゴー」をくれた。 花菜栄はこのようなパッションフルーツが好きだ。 香りの強い食べ物が、基本的に好きなせいと思われる。 普通のマンゴーは、黄色い色をしているが、 沖縄のマンゴーは、大変鮮やかな赤であった。 「赤」というより「紅」という風合いである。 姉と二人、賞味させていただいた。 大変に美味であり、その甘く芳醇な風味と食感は 花菜栄をマンゴーの虜にするに難くなかった。 いたく感激した旨を義兄に伝えてほしいと 姉に委託し、次にまたマンゴーを食すことができる日を 心待ちにしていた。 ・・・ほどなくして、また兄からマンゴーをいただいた。 今回のマンゴーは沖縄産のものではなく、輸入物だそうで イメージ通りの黄色の果実であった。 張り切って新聞紙を用意し、その上でもりもりと マンゴーの皮をむき始め、早くその果肉と果汁で 口の中を満たしたい欲求と戦っていた。 まさに花菜栄がかぶりつこうとしたその瞬間、 姉が花菜栄を制止した。 「あんた、うるしにかぶれるよね?」 なぜに今、そんな事を問うのか、と早くマンゴーに かぶりつきたい花菜栄は苛つきながら聞き返した。 「マンゴーって、うるし科の植物だって知ってる? 彼(←義兄のこと)もうるしに弱くて、沖縄産のマンゴーは 大丈夫なんだけど、輸入物のマンゴーを食べると 口がかぶれるんだってさ。 だから、輸入物のマンゴーを食べるときは、唇につかないように かぶりつかないで、カットしたものを食べるんだって。 あんたもやばいかもよ?」 確かに、花菜栄の皮膚は、大変に植物に弱く、 小学生の頃に遠足でいった山でかなりひどい草かぶれになり それ以来、医者からも、おかんからも、山に限らず 草の生い茂っているような場所には立ち入り禁止を 通告されていたのだ。 しかし、まさかマンゴーでかぶれるなんて。 一笑して、花菜栄は忠告に耳も貸さず、目の前の マンゴーの誘惑にあっさり負け、むさぼりついたのであった。 ・・・数日後。 唇が、痛痒いような、灼熱感を感じていた。 花菜栄は、胃にストレスを感じたり、疲れがたまったりすると よく唇に水膨れが発生する。 今回も、それが出たのだ、と思っていた。 が、何かおかしい。 やけに水膨れの範囲が広く、しかも一つ一つが妙に小さい。 おまけになぜか、かゆいのだ。 いつもは、かゆみなど感じない。 これって、もしかして・・・。 そう、花菜栄は先日食べたマンゴーにより、唇が うるしかぶれになってしまっていたのだ。 こんな情けない話、他ではなかなかお目にかかれない。 さらに、その後も義兄が沖縄産のマンゴーを持ってきて くれたのだが、この前例にもかかわらず 「今回のは沖縄産だから、大丈夫♪」と 懲りずにかぶりつき、むさぼった結果、 以前はなんともならなかった沖縄産のマンゴーでさえも うるしかぶれになってしまったのだ。 好物なのに、こんなに苦しい思いを覚悟して 食さなければならないなんて・・・。 涙にむせぶ花菜栄だったが、 「マンゴープリンならさすがに平気だろう」と 果敢にチャレンジしてみたが、それさえも仇となり とうとうマンゴープリンでさえも(←しかも市販) うるしかぶれが発症するようになってしまった。 マンゴー食って、うるしかぶれ。 好物をとるか、かぶれの苦痛をとるか。 かなりの究極の選択なのである。