現象学的社会学(phenomenological sociology)
アルフレート・シュッツがその始祖
シュッツは、法律家であったが哲学にも造詣が深かった。
ウェーバーの行為理論を批判した著書を書いたのが社会学に手を染めた
最初であった。(『社会的世界の意味構成』1932年)
その後、ナチスを逃れてアメリカに移住。
先ずは、「現象学」について。
*現象学(phenomenology):エトムント・フッサール(1859-1938)に始まる哲学の流派
フッサールは、主客二元論と自然科学至上主義に反対した。
初めは数学の基礎論を研究したが、後に人間の知的活動全般の研究に移行した。
自然科学の発達によって、次第に人間に対する考え方にもその発想が浸透してきた。
→ 科学主義(Szientismus):自然科学の世界だけが唯一の正しい世界であるという
考え。
フッサールによる精密科学と厳密な学との区別
:一定の世界観と論理から精密に理論を組み立てたもの=精密科学としての自然科学
:現象学は、世界観そのものの根拠を問う=厳密な知のあり方。
*フッサールの「現象学的還元」の手順
1)科学者も一般人も、日常生活で「あたりまえ」と感じている世界観から考察を始め
る。こうした日常的な意識のあり方をフッサールは「自然的態度」と呼んだ。
フッサールは、この自然的態度を「括弧に入れて」留保することを提唱した。
=ここにあるこの机は、机ではなく、或る存在としか言えない。
色や形や名称は仮のものにすぎない。
(こうした態度を「エポケー」(判断停止)と呼ぶ)
2)エポケーによって、純粋意識(または超越論的主観)に立ち帰って、そのものの
本質に迫る。
3)そこから、自我と他者、生活世界を構成する。
*シュッツによる社会学への応用
社会は「もの」のように見えるが「もの」ではない。それは意識に現れる特殊な世界で
ある。世界はそれを世界と思っている者にとっての世界である。
その特殊な世界を、「生活世界」(Lebenswelt, life-world)と呼ぶ。
自然科学や日常的常識の現実だけが世界の現実ではない。
=「多元的現実」(multiple realities)
夢や芸術、宗教の世界も、それなりの「現実」である。
ウェーバーの「理解社会学」は、素朴な方法によっていた。もっと厳密に他者の理解
について考えるべきである。社会学者もまた、自分の生活世界に依存している。これ
に無自覚であるなら、厳密な学とは言えない。
現象学の影響
1)「下から見る視点」の徹底
先入観を捨て、その当事者の目で見る態度
(参与観察による、宗教団体・暴走族・チーマー・社会運動などの研究)
日記や手紙、生活記録、インタビューなどの「質的データ」を解釈する方法が
多い。
*日常生活における微妙な過程を分析し、「秩序」の形成を問い直す
・フレーム分析
・エスノメソドロジー(ethnomethodology)
相互に行為しているそれぞれの人が何を実際に意図しているか。それぞれの場面を
細かく分析する。「会話分析」が主流。言葉に出ていることだけでなく、状況や
前後のつながり(文脈 context)、態度などもデータとして扱う。
| 発言者 | 実際の発言 | 裏の意味(言いたいこと) | 裏の意味(戦略) |
| A君 | 明日とかヒマ? | デートなんてどう? | 一応さぐりいれとこう。 |
| Bさん | う−ん、ちょっと
忙しいかな。 |
あんたとはいやよ。 | はっきり誘われる前に
可能性がないって言おう。 |
<会話分析>(H・サックスなど)
会話における身体の動きや視線、会話の順番や状況をデータに含める。
A・B 会話者
:: 直前の音を伸ばしている
// 複数の会話が重なっている(同時に話している)か割り込んだかした場合
= 複数の会話が接触している(ひとつの会話の終わりと次の会話のはじまるが接し
ている)
( )はよく聞き取れなかった場合。
[ ]内の文字または事物は会話者の視線の方向を表す。
実線は視線の継続を表す。
視線が合った場合は、Xで表記。
うなづいた場合は、nodで表記。
[コーヒーカップ]−−−−−−−−−−−−−−−−−[B]
A:それじゃあ、カレの話って別れてくれってことだったの?
[コーヒーカップ]−−−−−−−−−−−−−−−−−nod
B:( )
[B]−−−−−−−−−−−−−−−−−−X
A:で、なんて答えたのよ。=
[コーヒーカップ]−−−−−−−−−[A]X[コーヒーカップ]
B:いいのよ、もう。
Aは、先立つBの会話[省略]を「告白」ないしは「相談」と解釈し、それを決定してみ
せた。
Bは、それに同意はしつつも、Aの関心の内容に不安があって会話を中断させようと
する。
*問題点
小さな社会状況について考察することはできるが、大きな状況(国際関係や全体社会
の動き)については弱い。
2)批判的社会理論
常識を疑う=社会学の新しい流れ
それは、社会学自身を「疑う」ことでもある。
(例)
・男らしさや女らしさ:フェミニズム運動
・科学技術による快適さ:第三世界の開発批判、環境社会学、環境倫理学
・社会学による社会学への批判:批判理論(ユルゲン・ハーバマスなど)、知識社会学(ピー
ター・バーガーなど)、社会学の社会学
(1)ハーバマスの批判理論
(マルクスの「人間疎外」論や「物象化論」の現代版)
社会はシステムと生活世界の二つに分割されている。
今日のような高度な資本主義社会では、生活世界は官僚制などのシステムの論理によ
って圧迫され「植民地化」されている。生活世界をシステムから解放すべきである。
そのための戦略は、コミュニケーションの理性化である。システムの論理によって歪
められたコミュニケーションを、自由で解放的なものにしていく必要がある。
(=「理想的発話状態」)
ハーバマスの依拠する言語哲学(英米の哲学者が主流)
ジョン・サール、ジェームス・オースチン、など
特に、言語行為理論が大きな位置を占める。
*発語内行為と発語媒介行為の区別
・発語内行為=発言によって当の発言内容を伝えること。
・発語媒介行為=発言内容を伝えるというよりは、発言によって相手を自分の意図
どおりに動かすか影響を与えようとする行為。
(例)「雨が降ってきたね」
=発語媒介行為としては、「傘を貸せ」かもしれないし、「もう帰るよ」かも
しれない。場面や前後関係、会話している人々の関係によって違ってくる。
*ハーバマスは、日常的なコミュニケーションが歪められたものになる危険性を認知
していた。(=権力の日常性)
| 実際の発言 | 裏の意味(言いたいこと) | 裏の意味(戦略) | |
| C部長 | ご用ですか。 | ||
| D常務
|
いや、ちょっとね。
これは君の自由だけ ど、日曜にゴルフを つきあってくれない か。相手は大事なお 客なんだが、先方さ ん人数が多い方が楽 しいと言ってね。 |
私だけに仕事がらみの日曜
ゴルフをさせていいのか。 来たほうが君の有利になる よ。断りかたによっては今 後考えるからな。 |
自由と言ってあるから、
来ても自主的な行動と いうわけだ。 客と言うかぎり、仕事 の一部ということだ。 |
| C部長
|
常務のお召しとあら
ば喜んで。いえ、家 の者は構いません。 いやあ、楽しみだな あ。 |
付き合うからにはメリット
があるでしょうね。 |
常務の「仕事」に協力
的であることを見せて おこう。 |