◆オーストラリアンハズバンド◆

 日本人の「働き過ぎ」についてはオーストラリアでも有名です。「日本人は休み無しで何日くらい働き続けることができるんだい?」、「君が勤めていた会社でも過労死は頻繁に起こったのか?」などとよく質問をされました。事実無根とは言えないまでも、一部の事例が誇張して伝えられています。欧米諸国のお父さんたちは休みが多くて残業も少ないのは確かですが、世界中で騒がれているほど、日本人だけがことさら勤勉であるかどうかは疑ってみる必要もあります。

 その一つのヒントとして、「オーストラリアンハズバンド」という言葉を紹介しておきましょう。オーストラリアでの夫たちのあるべき姿、夫としての必要条件とでも訳しておきます。オーストラリアの夫たちは仕事が休みの日に、実によく働きます。家庭サービスについては年中無休、24時間体制でフル稼働しています。実に勤勉で、働きものです。炊事、洗濯、掃除はもちろん、子供の世話、車での妻子の送り迎え、庭の手入れ、電気製品の修理、車の修理、家の増改築。何でも器用にやってのけます。しかも取り組み方が積極的で、これらの仕事を楽しんでいるふうです。

 家の増改築のことまで書くと信用してもらえないかもしれませんが、これはオーストラリアでは少しも珍しいことではありまんせん。本職の大工さんに頼らず、家族や友人の手を借りて素人だけで家を建ててしまう人たちが少なくありません。オーストラリアの「日曜大工」は道具も腕前も「プロ顔負け」です。大きな家、広い庭を維持し手入れするためと、そのまた手入れをするための道具を手入れするためとに、「日曜大工」の腕前が必要なのです。

 休日の午後、「週に土曜と日曜しか家事を手伝うことができなくて、妻に申し訳けないから。」とつぶやきながら、せっせと洗濯物を取り込んでアイロンがけをするデイビッド。同時に夕食の献立と、子供たちの明日のランチボックスのおかずを考えている彼の姿に、私はただただ感心させられました。亭主の役割を二人前ほど演じ、また一人前に主婦業もこなす。これがオーストラリアンハズバンド(オーストラリアの亭主族)の姿なのです。

 日本ではこのような家事の分業・分担はまだまだ完璧とは言えないでしょう。第一、家庭サービスに熱心な人を「勤勉」と言うでしょうか。会社の仕事に差し障りがでてきて、出世に悪く影響しないかなどと余計な心配までしてしまいます。日本の奥様方は、本当はどちらのタイプをお望みなのでしょうか。

 ところで、「中国人のコックを雇い、アメリカ人の家に住み、日本人の妻を持つ。これが男の幸福なのだ。」という、西洋人男性の間での言い習わしがあります。言い得て妙、含蓄のある言葉ではありませんか。あるフランス映画の中では、この逆のことを言っていました。「この世の不幸とは、イギリス人のコックを雇い、日本人の家に住み、アメリカ人の妻を持つことだ。」と。こちらは秀逸、できの良いジョークです。このことからもわかるように、世界一の働き者とされているわれわれ日本人男性は、世界で最悪の住宅環境にあって、世界で最良の妻に恵まれているということになるのです。実に釣り合いのとれていない不幸な状態にあると言えましょう。

 そして、自らは世界最良の妻でありながら、最悪の家に住み、世界で最も「家庭をかえりみない」夫を持つ日本の奥様方は、なんともお気の毒としか言いようがありません。


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