詩日記     近岡

<2012-05-19>

 

 

―私の時間―

 

田は水を満々とたたえている

水面は細波が立ちわたってゆく

隣の田は恥毛のような苗が青々と揺れている

側の国道は車が急いでいる

陽は傾いているのに広々と明るく

建築群は淡い色につつまれている

2012519-

 

 

散った八重桜の上を駈けてゆく白い運動靴

 

意志が神経より強いから 自滅してゆくような

 

みんな仲がいんだなあ 綿毛になって咲いている たんぽぽ

 

今日は 白い花も 黄色い花も 紫の花も 美しく見える日

201258

 

―ゆく春―

 

何を語ればいい

今年も強姦された 春に

あれだけ待っていたのに疾風のごとく駆け抜けて行った

山里で出会いたかったのだ 桜に

群れをなす行楽地の桜は反吐が出る

何事も そこはかとなく過ぎるのがいい

春はのっぺりと逝ってしまった 昨年も

 

そして今 二ケ月ぶりの階段だ

何をしていたのだろう 私は

迷いに迷って 一週間前から 学生時代に戻った

教会は正義にあると 神学論争をしながら ヒトラー暗殺計画に加わって 処刑された確かな男の本を読んでいる 庭も見ずに

 

喧噪だらけだ この世は

少し黙っていてくれ

階段はもう焼けつくような陽を浴びている

晒された階段は何を訴えたいのだ 私に

人獣は雨に打たれて潔い

階段上に顔を出している樹のてっぺんが手を振っている

 

あと何年生きるのだろう

私は何をしたいのだ もう したいことの万分の一もできないのに

そうだ 習癖で歪んだ私が暴走しないように

確かな男たちに鞭打たれながら息絶えるのみだ

2012427

 

 

―木漏れ日の下―

 

裏切り者である 僧である私

鳥居をくぐっている

巫女に会いたいのか 朱の袴の

赤ん坊を抱いた夫婦が祈祷してもらっている

祝詞があがる

太鼓が鳴る 笛が鳴る

巫女が舞う 鈴を振る

樹にも 井戸にも 神であるしるしの飾り紙

 

国家の命で死んだ父を持つ

仏が神にされてしまった

燃やせ ○○神社を

と言いたいのだが

それを除けば

神が好きらしい

宇宙も 私も 混沌としているが

神は潔く区切って

言葉を殺ぎ

情念の行方を一人にする

 

木漏れ日の下 とぼとぼと玉砂利を歩いた

2012427

 

 

 

群生する紅いの椿

盲いたものから落ちてゆく

2012410

 

 

―アッシジ―

 

深夜

ベートーヴェンの歌曲が鳴っている

 

あなたを忘れて

私は手ひどい復讐にあった

だからアッシジに行かねばならない

 

精神病理学者の先生はアッシジがいいと言っていた

あの斜視で

それを思い出した

 

あなたが隠れると私は途方に暮れる

私の邪悪はあなたを隠そうとする

あなたがどこかへ行ってしまうと

森羅万象は影から追っ手を放ち

私を目覚めさせるため私を泥濘に突き落とす

私は泥にまみれた目の隙間から

曙光があなたを囲っているのを見る

 

あなたなしでは生きていけないのに

何度試練を私に課すのかあなたは

そういうものです

過酷がなければ歓びはないと

あなたは教えていた

2012410

 

 

―無題―

鶯がやってきた

同じ場所に 庭の崖

安心した

今年も

2012328

 

 

思春期の

あの苦悩の面(つら)

懐かしい

四人の男子がカフェに

 

あの時と

今と

どう違っているか

2012329

 

 

死は劇的である

だから人生も劇的に生きよう

2012329

 

 

迷惑をかけた

だから終止符を打たねばならない

もっと迷惑をかけるから

見ろ どの人生も劇的である

他人の目を気にしてはならない

2012329

 

 

目的のために多忙になりすぎてはいけない

自分を見失うから――

自分を見失うくらいなら目的を捨てよ

2012329

 

 

恒産あれば恒心ありと言う

それは必用条件であって

恒時(余暇)が恒心の十分条件となる

しかし愛がなければ砂上の楼閣となる

2012329

 

 

一番大事なのは余暇である

多少貧しくても我慢しよう

名誉欲から徹底して離れよう

名誉のために余暇を費消するほど無駄なことはない

2012329

 

 

―無題―

 

  庭

春の装いになってしまった淋しさ

ベートーヴェンが鳴っているけれど

2012318

 

 

―二日酔い―

 

断片を眺める――

世界最高級のワインと奥能登の銘酒とビールをちゃんぽんし

ここに来たが

眠いだけだし

いい気分になって毒舌家になて

吉本隆明が死んでトップニュースの阿呆らしさ

新左翼の言行不一致

オウム真理教の太鼓持ちした責任を取りもせず

 

世に流行るものを打倒せよ

適当に処しなければ時と場にからめ捕られ私はいなくなる

あれもこれも死んでそれも病気になって

もう限界

次のところへ 二日酔い

2012317

 

 

―本を読もう―

 

鼻をずるりといわせて作るミルクティ

サクラまでの宙ぶらりんの季節

でも私は意気軒高だ

でも園児たちは怖いものを見るように私を見る

でも中には生命力あふれる目で私を見る

格闘しているのか 流されているのか

手首が痛い 炎症か

ミルクティに皮が張っている 命あるもののごとく不随意運動をしている

私の唯一の趣味といえばカフェ通い かけがえがない

パチンコで親の遺産を使い果たした女から相談を受けた

山奥の一軒家を買おうか もう何もかも捨てて 超安かったので .

やめたほうがいい と私は言った

熊が出る 虫が出る 蜂が出る 蛇が出る 下水道がない

何かに取りつかれたような目をした女は

はたと当惑して

熊が怖い 虫がいやや 蜂も怖い 蛇も怖い ウォッシュレットがいい

どうしたらいい

市役所の福祉課に行って相談すればいい

生活保護という手も

と言ってはみたが

自分のことを棚に上げて

働け みな真面目に働いている

と帰る背中に浴びせた

 

階段にやわらかき陽が射し

頑固に居残る雪が邪魔だ

人獣は影薄く 蝙蝠に活路はなさそうだ

おゝ もうずいぶん電線は緩むことを忘れ それは私が気を病んでいるからだろうし

ただ 階段上に見えるあの樹木の頂の葉が私に可愛い顔を振り

それを味方にして

これからどこへ行こう

何をしよう

本を読もう

2012316

 

 

―誇大妄想―

 

あゝ と嘆息をつきたくなる

親鸞全集 内村鑑三全集 ボンヘッファー選集 田中正造全集 ニーチェ全集 仏教の空・縁起思想の本を揃えたので

格闘しようと思う

並行して研究する

当面の快楽を確保した

だから階段はいつにも増して重厚だし

曇天は三分の一が明るく兆し青空も垣間見える

人獣も突撃体制にある

と言いながら誇大妄想はやまず

意欲が理性をはみ出している

相変わらず自分だけのこと

時代の災厄に目をふさぎ

利己に徹して恥じない

いいのだ

そのように遺伝に呪縛されているから

横超なんてとんでもない

真の友人なく 死を賭すべき神もなく

求道者ぶって天に唾する

もう風景は桜狩の中に自分を置いている

食べるために生まれたのだ

淫貪 財貪に涎れし

人類と宇宙が滅びても私と書斎だけがあればいい

と祈りたいのだが

誰に

2012313

 

 

―卒倒する釈迦―

 

動く 動く 人は動く

疲れないのか なぜ動く

一切が静止したらどうなるだろう

 

だから神など存在しないのだ

不可能を可能にするものが神だとしたら

一切を静止できない神は人間に等しい

 

信じてはならない 絶対というものを

一切は遊戯である

などと 災難に見舞われていないから能天気だが

阿鼻叫喚する時には一本の蜘蛛の糸を

二本もと駄々こねる私に

釈迦は卒倒するはずだ

2012310

 

 

―残像―

 

遠大な計画を立てた

ニーチェ全集を読破し

親鸞を再読し

空・縁起思想を研究し

十年がかりで本にまとめる

 

結論は出ているので

宗教も思想も手段であって

自立するための

ツァラトゥストラも阿弥陀佛も手段であると彼らは言っているし

しつこい恐怖から解放せしめるものが空・縁起思想

 

だから雑多な仕事は削除しよう

と階段を眺めたら

彼は私よりも超越していて

私のアキレス腱に見て見ぬふりし

ずっと先を行っている

 

仕方ないのだ

今はそうだから

私はいつもそうだった

でも希望は挫折してきた

持続することが難しい

石に噛り付いても

間違っていても

立てた計画は 今度こそは 成就したいと

今日は誰と契約しよう

電線でもないし セクシュアル・オーガンが突起する蝙蝠でもないし 虚脱した人獣でもない

一昨日から一日二食にしたメタボの我

誰よりも信用のおけない我 しかいないとは

 

劇的であった

階段を上る二人は光彩を放っていた

冬のコートを着た女性の親子

残像が私の意思と無関係である

2012310

 

 

―ダイナマイト―

 

熱があるらしい

身体がだるい

階段は上方に向かって勢いをつけて

それだけでも異空間の刺激があって

ロイヤルミルクティーを飲んで

猫舌なので音を立てて

今日は季節の誘惑もなく

 

そうだ

ニーチエの全集を読破することにしたのだった

思想の変遷をたどる 逆に

遺稿から遡り初期作品に至る

まずは書簡である

一八八九年一月三日 広場で馬に泣き崩れて発狂

その後の支離滅裂な手紙の中にも

ユダヤ人を讃えていた

ユダヤ人虐殺にニーチエ思想が悪用されたのは

ニーチエの妹のせい

 

自分をダイナマイトに喩えた情念に惚れ

ベートーヴェンと二つを生活の拠り所に

肺炎になるかもしれない胸の空洞感を

深呼吸して確かめた

201237

 

 

―片想い―

 

青銅の鳥居が好きです

紅の袴の巫女が境内を走っています

広いのがいいです

その中にあるカフェの照明が大正ロマン的なのもいいです

 

もう時間をたっぷり使いたいです

忙しかったから

よく言いますよね 忙しいとは 心が亡ぶと書くと ブー

ここに雉でなく孔雀を置きたいですね

神木や神殿の屋根に孔雀が行ったり来たりしたら恰好いい

神道こそ純日本的

鎮守の森が好きなのです

神様はもっと賢くなければなりません

山、川、木、稲、万物に神が宿るのですから

神を殺す者の手を捻りあげて

どうして日本から追放しないのですか

 

片想いにしないでください

まさか神様までがお金に目がくらんで

消えない火を 日本の限界集落に付け火して回るのではないでしょうね

日本の神さまは騙され 利用されて

一度は日本を焦土にしましたが

樹木に神が宿ると 木を伐れば祟りがあると

守ってきた鎮守の森の意志

立ちなさい

天皇が神国の頭であるなら

所々の消えない火が猛火となって日本から飛び火し

八紘一宇の民を焼き

親類らしきモーゼの民を焼き滅ぼす前に

朕の覚悟を示し 錦の御旗を振れ

 朕オモヘラク 消ヘナイ火ハ 外来ノモノデアルユヘ 神国ニナジマナイ イチハヤク消シテクレゾヨ 消シテクレシ者ヲ 余ハ クルシュウナイ 神トタタエルゾヨ

と勅語をもって四方に宣べるなら

草の民は臣従するであろう

 

境内には溌溂とした若い男女も

足を引きずる老人も行き交っている この平らかさ

もう一度だけ機会を与えよう 日本の神々よ

この業火に憤怒し太刀むかえるのはお前たちしかいないと恋い焦がれるのに

見捨てようとするか

商標となった神に収まり 家内安全、商売繁盛の現世利益に柏手を打ち続けるか

日本の仏と同じように

カシコミ カシコミ

201236

 

 

―風待ち港―

 

春の風が強く吹いている

能登の外浦海岸に来た

急かされるように

 

小道を辿る

小屋の屋根が道に影を落とす

杭の影

笹が擦れ

木を焼く臭い

 

一年に一度は来たくなる

北前船で栄えた風待ち港 福浦

船員 漁師 置屋の遊女で賑わった

崖の上に散乱している船員と遊女の無縁墓石

事故死 病死 縊死

遊女と男たちの声が波涛に混じる

安政二年七月 但馬竹野村 福田甚七

の墓石

茫漠とした暗緑色の海

力なく靡く草

赤い椿

 

霊を背負う

彼ら死霊は私に纏わりつく

娑婆を見たいのだろう

生霊となって私と歩きたいのだ

放浪癖の私を待っていたのだ 今年も

いいだろう

お前たちは災いをもたらすかもしれないが

仕方がない

 

日本一古い白塗りの木の灯台への道は

羨道のように細い

蔦の生えた廃屋

眼下に露出した岩

遠くに梵鐘の音

 

灯台の下には入り江の港

誰もいない

ヤッケの釣り人がひとり埠頭にいるだけ

高台の喫茶店も朽ちていた

猿田彦神社には幹が空洞になっている欅

 

怖い入り江

入り江から不気味に広がる暗い海

波が盛り上がって入ってくる

五キロ戻ると原発があった

巨大な煙突が点滅していた

ここの小高い山には風力発電の風車が化け物のように並んで回っている

 

帰り道

無縁墓地に見入っている男

驚かしてやろうとそっと近づく

振り向いた男は驚愕し 立ち竦んだ

私はどんな顔をしていたのか

歩きながら可笑しくなってくすくす笑った

振り返ると男は硬直してまだ私を見ていた

私は声まで出して笑いながら歩いた

201234

 

 

―デフォルメ―

 

変哲もない日が続く

携帯電話のせいで視力も弱まった

 

木が揺れる

階段の上に見える木のてっぺんが手を振る 風で激しく

私に手を振っているのだ 私のマグマに向かって

私は精一杯だ 古稀の肉体が軋む

北国の空は濃いグレーで いつもグレーで 私は好きなのだ 思惟空間を

懶惰なまま生かしてくれる半島で

喉を圧さえれたまま生き延びる

気が遠くなる

階段は暗く陰影を放ち

人獣は漸く息を吹き返す

 

ここを造った男はどこへ行ったのだ

エジプトから続くデフォルメを移植した男は

トイレにまで憧憬を写し

だから私はここを食べ 綻びた私を弥縫し 加害者となる

201232

 

 

―北帰行―

 

白鳥が飛び立ってゆくところだった

七・八羽がゆったり列を作って

大旋回して消えていった

白鳥は去る時 世話になった人に挨拶して 大旋回するという

見送る男たちが五・六人いた

最後の白鳥らしい

肌寒い三月一日

 

水郷公園に偶然来た私はその一瞬に立合ったのだ

知らなかった ここが白鳥の住処だったことを

双眼鏡で見送る男

別れを惜しんで立ち尽くす三人

なぜ男だけなのか

夕焼けがなだらかな山並みの上にある

201231

 

 

―呵呵大笑―

 

階段の雪はほとんど消えて蛇腹の段を象形的にしていた

木のてっぺんにある緑がほのかに見える

憩うことにしよう

 

なんだかんだといってとどのつまりは

闘争的であるのが私であるから

慈悲とか愛とかの仮面を脱ぐことにしよう

 

爪が生えている それも干からびた老いの――

ボールペンを持っている 滑りがいいので一ダース買ってしまった

罰せられる日が来るのだろうか かいくぐってきた過去に責められて

このように平凡な日は地震も来ないであろう

しなければならないこともなく

贈本されたあの真面目な本に返信を書くことにしようか

どこまでが真でどこまでが偽か

次第に分からなくなってきて

このまま続くとしたら

誕生の意味も見いだせない

そもそも無意味を意味づけても

恒転如暴流の心奥は呵呵大笑するのみだ

201231

 

 

―狂いたい―

 

春です

あちこちからやってきます

信号も空も春の色

明日から毎日出かけます

春に会いに

 

ぬるんでいます

山も街も

雪も遠慮がちに消えてゆきます

車を運転していても

風が春をいっぱい含んでいるように見えます

 

こんなに年をとっても

去年以上にうきうきします

あと何度こんな季節を迎えるか

明日から毎日出かけます

桜の咲くころまでか

柳が新しい枝を装うころまでか

いえ 風が冷え冷えとしている間です

 

希望のなくなった年になっても

春はいっそうやさしく迎えてくれました

希望が永久であるかのように

はるかかなたまで続いているかのように

どうしてでしょう こんなに華やぐのは

 

こんな詩も書けるのですね

身体の隅々まで 心の隅々まで

素直になって

車を運転しているだけで

幸せが満ちてきます

 

長生きするっていいことなんですね

いっぱい死を見てきても

戦争の悲しさを味わってきても

誰が贈ってくれるのかしれないけれど

世界中が生まれたばかりのように

うぶ毛のようにやわらかい

狂い死にしそうだった昨日までが嘘のように

春の香りが私を甦らせ

その代わりにもう一つの狂いを

毎日風のように運転するのを

見逃してもらいたい

 

まだ続いている

押しとどめることはできない

このやさしく語りかけてくる空気

身をまかせよう

あてどなく

桜の蕾が堅い間

2012226

 

 

―神に悪戯された二人―

 

観葉植物だけが自己主張している今日

階段の雪は背景に退き

電線は私に似て社会を警戒して緊張気味だ

葉っぱ はっぱ 君は何とゆったりとエアコンの風に靡いていることか

人獣はいつのころからかすっかり言葉を喪っている

 

さて 私は事を運ぼうとしている

ニーチエのごとく ゴッホのごとく

二人に共通するのは牧師の子

一人は神は死んだと言い

一人は牧師であらんとして変人扱いされた

彼は実存哲学の祖となるも狂い死にし

彼は生前に一枚の絵しか売れなかった

 

あゝ ここは美術館のカフェ

唯一現代文明の香りが漂っている田舎のオアシス

恋人以上に足繁く通う

 

私は僧侶の子 彼らと同じく洗脳と闘い 社会に歯向かい 挫折に舌鼓を打つ

私は神を経由して幾度も故郷のようにニーチエに戻り

私は烏のいる麦畑の前で 聴いたことのないシンフォーニーが幻聴になって舞い降りてきた京都国立近代美術館のゴッホに神性を認めたし

梅毒で脳をやられたか神の復讐にあったかニーチエのどちらをも信じるし

生まれた時から神に悪戯された二人に相応しい比類なき晩節にいよいよ親しみ

 

さっきまで陽が階段の雪を見下ろしていたのにまた元に戻り

明日から三日間の雪マークに小躍りし

生きることほど罪なことはないのに二人のように生を抹殺できないのは

地獄一定を説いた愚禿に魂を売ったか

いえ 単純なことです

格闘技の好きな私は揉め事に嵌っているだけなのです

 

久しぶりに企画展のある美術館はざわざわとカフェにまで侵入し

それはざわざわ ざわざわ ざわざわ と

2012224

 

 

―新しい場―

 

信仰を捨てようか

自分に正直になるために

と人獣に問うたら

薄っぺらな鉄板で作った人獣はますます薄っぺらになった

ふつふつと怒りが湧いてくる今

自分はどこにいるのだろう

怒りは快感でもあり浮遊でもあり

喪失でもあり空隙でもあり

子宮とぶつかって憔悴する

詩を書けば万のことが散乱し各々が新しい場所を占めるから

私はもう一度辞書を引きちぎって風に惑う一枚一枚の行方を追うのみだ

2012222

 

 

―内村鑑三―

 

おゝ 眼を射る

雪は陽と組んで私を寄せ付けない

橋上をガードマンが行くだけの最果ての美術館

を私は好きだ

 

私は好きだ

喧嘩が好きだ 汝の本性を暴くために殴ることが好きだ

泣いても汝が白状しないことを知っている

中国人捕虜を命令に背いて刺殺しなかった日本兵が好きだ

弟子たちの中から非戦の者を輩出した内村鑑三が好きだ

 

ころころ変わる私が嫌いだ

嘘をつく私が嫌いだ

ほんとうは大人しい私が嫌いだ

怒ることを忘れた私が嫌いだ

 

春だ 錯乱する歓び

花びらの下でどれだけ焦ったかしれない

2012222

 

 

―詩を変えたい―

 

  老化したのです

  詩を変えたくなりました

2012216

 

 

―秘事―

 

漫然としているとしても

ここに来ると叱咤激励される

いつの日からか送電線は緊張気味で

一昨日からベートーヴェンの全作品を聴き始めたので

いつまで続く?と嘲笑する者もいるが

一歳の孫男児が急に乱暴になって安心している

寝相が悪くて肩が凝っている

鼾がうるさくて眠れなかったと妻がぼやく

春 春 今年の春は鬱にならないか

トラウマも消えたけれど残像があるみたい

自然(じねん)という言葉が仏教にあって

ずる賢い処世術だがそれに合わせる

胸奥に打ち込まれた秘事

そこは神と仏が出会う場所

どうしてひれ伏すことができないのか

201227

 

 

―ベートーヴェン―

 

日曜日の美術館はそぞろ人多く

売店で何やら買っている

疲れた雪が階段にたむろし

眠い

みなさんは真面目だから

私は当惑する

だってベートーヴェン大全集が来たのだ

八十六枚のCD

賭けた 彼に 余生を

何もなくても彼さえいれば過ごせるような気がして

宵桜も 蜩も 参道の紅葉も そう柳も

彼がタクトをとってくれる

あなたはヴァイオリンも途中でほっかるし電動自転車も南伝大蔵経も内村鑑三全集も 無駄遣いを一杯してきて

またなのですか

と幻聴が聞こえる

いいのです 今度こそは

突然好きになってどの曲も人生を荘厳してくれる

読書しながら雑用をこなしながら彼は時間を空費させない

家には彼が待っているから帰れるのです

性同一性障害

でもあるまいし

音楽がこれほど私を甦らせるとは予想だにしなかった

諦めるには早い

201225

 

 

―立春―

 

雪は次第に怠慢になってきた

立春

慣れは怖いといえる

暴風雪が来ればいいのに

もう一度考えたいことがある

いえ何度でも 凍てる厳しさの中で

 

卒園式が近づくと震える

式辞とかいうもの どう話せばいいか

ところで 自然になってきた 毛筆も スピーチも

毛筆は力まなくても自分の文字になってきたし

スピーチも感情を素直に表せるようになった

今年の式辞

子供たちにひたすら感謝するのみだ(訓話をしない) 

(以下オフレコ)

いかに君たちに励まされたか(時には苛められたか)

君たちの無防備な瞳が私の臆した眼をあたため

君たちのさつまいもの絵が世の萎えた形式論を打破し

呼びかけは背いていた襟首をつかみ

だから君たち そのまま生きよ

桜の蕾が今から開くように

自分のしたいことを我侭にしろ

誰に遠慮することもない

私のように下手に妥協したらいつまでも青春時代は終らない

不完全燃焼がブスブスと醗酵し

試練の中で息絶えてしまう

一方 君たちは六年間で完結した

もう人生は終ったのだ

それ以上の輝きもないし

だから君たちに感謝する

最高のいのちを私に人身御供した君たちに

お礼できるとしたら

これだ

また降ってきた嵐の前兆

私を無視して降り積もる雪

201224

 

 

―原発―

 

階段に盛り上がっている雪

ツララがドスのように蝙蝠の羽からぶら下がっている

可愛い 人獣が頭に雪を置いている滑稽

はてさて

アイスクリームがうまい

雲が中空に帯状になっている 青空

凍てた日は昨日で終ったか 淋しい

屋根雪に反射する陽が眩い

集まった人はみな反対だった 原発に 風下だし

法事の終わった後 消せない火に点火した政治家に怒っていた

あの世があるから死んだ母は私にいろいろな幸を贈ってくれると当主

阿弥陀仏は一方的に与える愛 称名念仏する者はおのずとそれに見習うことになるはず

生身だからねえ

行ったり来たり

 

橋上を背を丸めた男子校生が通る

陽はますます明るく

雲が流れる

201223

 

 

―懺悔道―

 

いやなことがあったけど

君子危うきに近寄り

車ごと崖から落ちそうになり

でも今日はグレーの空に送電線が映え

蝙蝠の羽にツララが下がっている

雪は階段にずんぐり寝そべっていて

思考停止が心地いい

幕を下ろすことが必要なのだ

ヴェールで隠そう いやなことを

いま凝っているベートーヴェンも 田辺元『懺悔道としての哲学』も

うるわしき現実に変装する

田辺は思想を力ずくで鋳直し

到達したところは私の懺悔感と酷似している

私は綱渡りする

似たもの同志を探して延命を図る

その先には・・・

雪は真っ白になって問うてくる

今なのだ

201222

 

 

―詩と銅版画―

 

銅版画に描くのは線

こころの趣くままに引っ掻く

深く思索的な線を描きたいけれど

あかるく浮遊する線が出てしまう

困ったことだ

薄っぺらな人格が露出する

でも楽しいのだ

モノクロの線は思わぬ出来事に遭遇する

教室が待ち遠しい

初めて職人になった

交換価値を生み出したいわけではない

詩よりも自分を表出する線に驚く

線とは何か

すべてである

過去が映り

未来を覗き

現在を辿る

詩のように嘘をつけない

線が中断するまで手作りの詩画集を出し続けよう

おっ これは と線の中に汚濁が満ちてきたとき鉄筆を折るだろう

それまで職人の真似をする

汗をかかない偽職人はまたしても無機質な線に希望を託し

我欲の向かうところを監視する

201221

 

 

―除雪車―

 

除雪車がうんうんと響いている

湿り気を帯びた雪が階段を覆っている

やはり眠いのだ 昼間から

手押しの除雪車がけたたましく近づいてくる

象のオシッコのように雪を階段に撥ね上げる

平和なひと日

三木清の『パスカルにおける人間の研究』を読んでいた

戦争体験はないが戦時中のことが気にかかる

戦争に抵抗した群像に魅かれる

私だったら裏切ったであろう時代

三木清の一言一言が愚直なまでに身に沁みる

南京虫や疥癬にやられながら獄死した 敗戦間際

除雪車が滝のように勢いを増した

もう終るかもしれない

とふと洩れた

何事かが終ったらまた始まるか

三木清は未来をも過去をも捨てよという

現在あるのみ

そう 今なのだ

「詩と銅版画」という豆本を作った

ベートーヴェンのピアノソナタを聴きながら

至福に近いものだったか

名刺代わりにあげようと思う

ツイッターやフェイスブックは面倒だし

除雪車が遠ざかってゆく

止んだ

今が幸せであるように

虚無でも神でもない中間者 不安

彷徨い始める

どこかに 何かに 誰かに

2012130

 

 

―ボンヘッファー―

 

あゝ 疲れた

でも意思は真直ぐに向かっている

大いなる観葉植物は肉厚のバナナのような葉で 雪を形象している

 

誰か聴いてくれ

囚われた者はそのままに曳かれて行けばいいのか

ボンヘッファーという男に魅せられ

神に略奪された男の言葉に翻弄されて

同行二人

を見つけて

大冊の本の六頁分が

何と私と似ていることか この男

この類まれな意思の男を友として

生きることにしようか

などと

齢七十にして幾分解放された気持ちは

囚人のそれであり

ともかく新しい詩誌を作ることにして

「詩と銅版画」と名づけた

2012127

 

 

―雪と暴力―

 

弓なりになって雪は階段を覆う

粉雪が舞う

道路は北国らしくスリップする

スリル満点の冬は来た

 

単純が好きだ

分かり易く生きたい

複雑なものが介入してきたら排除する

けれど

文学は魑魅魍魎の世界

魑魅魍魎を理解せず計算で割り切ろうとする奴の頭を叩く

その時私は暴力的になる

 

あゝ 降る 降る

やっと激しく降ってきた

きりきり舞いして雪が 斜めに降る

間断なく 怖れることなく

小刻みに震え 雪が落ちる

止んではならない

雪に覆われているあいだ私は世を肯定する

意思あるもののごとく雪は脈打ちながら舞い 音もなく地面を徘徊する

 

静寂であるべし

無から有を造るべし

責任を担うべし

私であるべし

2012125

 

 

―ひととき―

 

白雪

という名の・・・

雪は嫌いだと人は言うけれど

階段に蒼穹をなす冠雪をまだ人は踏んでいない

人獣も新しく甦り頭と肩の雪を払いもしない

 

あゝ 何と美しいのだ

雪の上には真っ青な空がある

ひとときなのだ 保たれる美は

生甲斐はそれを探して右往左往することに尽きる

 

余分な言葉を挟まないでほしい

言葉を喚起する君たちに五体投地する

食べているアイスクリームも白

帰途に暴風雪があればもっと幸せだ

微動だにしない階段の雪は整然としている

それ以上私を安堵させるものはあろうか

ベートーヴェンとは並ぶかもしれないけれど

2012124

 

 

―いのち―

 

雪のない階段

 

私にくれよ 弛緩を 留め金を外してくれ 宇宙を構築している我欲の元凶を

送電線さえ緊張気味だ 本来の撓みを忘れて人類に妥協している

人獣もただ吼えているだけだ

私に与えられていない日々 さすらいの歌

死んでしまえば自由に浮遊できるらしいが 怒る相手もなくなるかもしれない

凍える今日から一歩踏み出そう 遅れてしまう 強姦されるのだ 季節に

好きだ 陽気よ 柳も桜も川縁もゆるんで 憧れが復活して まだ見ぬものを  我を忘れて幽求する時

それをこの灰色に馴染んだ風景が 裏返って見せるのです

 

おゝ 階段上にこの場を凌駕する断片 何か常緑樹の葉っぱが頂きをのぞかせて

ううん と唸らせる いのちに勝るものはない

だから どうにもならないというのか

2012121

 

 

―一日に一回は全面敗北する―

 

鉛色の空 階段

うっすらと階段に雪を置いて

でも電線さえそのたわみが私の弛緩を赦さず

でも言葉を誘う

久しぶりだね

 

ポルトガル スペインに行ってきたのだけれど

どうして詩が生まれなかったのだろう

処女を好むせいか

ポルトガルは二度 スペインは三度

そうではない

私は自分を持っていないのだ

なぜ好きな人を好きと言えず

嫌いな人を遠ざけられないのか

 

茨木のり子

彼女ほど言葉を持っている詩人は少ないだろう

イヤはイヤ 国旗も国歌もイヤなのだ あの血塗られた

でも怒ってばかりもおられないし

神経が病んで癌になる

強くなりたい と父も言っていた

その子供だから逃走癖がある

ここは宮沢賢治のようにあまりにも冴え冴えとした空があって

青空が見えたりして

千切れ雲が語り始める

 

おかしいぞ

そろそろ破滅の時が近づいたのか

物の分捕り合戦に私も参画する

それ以上はだめです 私が手塩にかけて育てたもの

あなたが正しいか私が正しいか

言うべきことは言わねばならず

 

結局 なあんだ 解けてしまう場所を持っているから

私は一日に一回は全面敗北するのです

2012113

 

 

―銀杏散る―

 

金色に光る銀杏を踏んだのだ 心のなかで

いたるところに落ち葉があったし