セルクルシェフが日々の出来事や思いを気ままに綴るページです
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2010.4
新作ショートストーリー <大きな桜の木の下で>
それはもう三十年以上も前のお話です。その街には北小学校と南小学校という二つの小学校が有りました。そして、ちょうどその中間点に桜の木が一本植えられている小さな公園が有ります。鉄棒と滑り台が有るだけの小さな公園です。そこから歩いて10分ほどのところに遊具がたくさんの広くて大きい別の公園が有り、子供たちは皆そっちにいって、小さな公園はあまり人気が有りませんでした。
春休みも終わりの頃、その小さな公園の鉄棒で一生懸命に逆上がりの練習をしている男の子がいました。北小の一年生です。彼は二年生になる前にどうしても逆上がりが出来る様になりたくて毎日手の皮が破けそうになるくらい練習をしていました。同じ頃、桜の木の下で逆立ちの練習をしている女の子がいました。手を地面につけ一生懸命に足を振り上げるのですが、なかなか足は桜の木まで届きません。彼女は春に二年生になる南小の女の子です。やはり春休み中に逆立ちをマスターしたくて、毎日練習に来ていました。二人にとって人気の無い小さな公園は、ほかの友達に見られる心配が無く、こっそり練習するには好都合でした。
はじめは自分の練習に夢中で、お互いのことは目に入らなかったのですが、そのうち二人の胸の中にはどちらが先に目標を達成できるか競争心が芽生え始めました。失敗するたびに相手の方を見やり、相手も失敗するとホッとしたりするのでした。だけど、二人は心の中で、無意識のうちにお互いを励ます様にもなっていました。
そして、春休みも最後の日になりました。北小の男の子の手の皮は破け、手袋をしなければならない状態でした。だけど彼はがんばりました。その日、とうとう逆上がりが出来ました!うれしくて、うれしくて満面の笑顔で桜の木のほうを見るとその日に限って、南小の女の子は来ていませんでした。なんだか少し寂しい気分でしたが、それより逆上がりが出来たうれしさの方が大きくてすぐに彼女のことは忘れてしまいました。
あれから三十年の月日が流れました。北小と南小は少子化により一つの小学校に統合されました。街並みもだいぶ変わりましたが、小さな公園はまだ健在です。桜の木はもうだいぶ大きくなりました。
今年もきれいな花をたくさん咲かせて街の人たちを楽しませています。そんなある日、鉄棒にもたれかかっているカップルが桜の花を見ながらお話しをしています。
「小学校のときクラスの男子の中で俺だけが逆上がりが出来なくてさあ、この鉄棒で一生懸命に練習したんだよね!」逆立ちの女の子のことはすっかり忘れているようです。
ベンチに座ってベビーカーの赤ちゃんに話しかけているお母さんもいます。
「あなたは運動神経が良いのかなあ?お母さんはねえ、逆立ちが苦手でね、あの木で一生懸命練習したんだけどね、結局出来なくて途中であきらめたんだ。でも、おうちに帰って壁に向かってやったら簡単に出来ちゃって、もうここには来なくなったんだ」お母さんに話しかけられて赤ちゃんはニコニコと笑っています。
大きな桜の木だけが知っている昔々の小さな小さな物語でした。
fin
※シェフが投稿しているサイト「超短編小説会」の中で会員同士が同じタイトルを競作しているお話を掲載いたしました。最後まで読んでいただき有難うございます!
2010.6
新作ショートストーリー <天使のさがしかた>
三十五歳になった僕は、あるホテルの宴会場で開かれているお見合いパーティーの会場に来ている。一向に結婚する気配の無い僕を心配して、お袋が勝手に申し込んだのだ。だけど僕はどうもこういう場が苦手だ。気が乗らない僕はきっとはたから見ればつまらなそうな男に見えているに違いない。見渡すと、他の男性陣もどちらかと言えば奥手のタイプが多く見受けられる。
女性陣は、玉の輿と言う人生のファーストクラスのチケットを手に入れようと、躍起になっている。中には純粋に出会いを求めて参加したような女性もいない訳じゃあないのだけど、僕にはどうしても獲物を狙う女豹たちの群れにしか見えない……
「みなさん、楽しんでますか?気に入った方が居らしたらお手元のカードにお相手の番号を書いて私どもスタッフにお渡しくださいね!」司会と進行役の女性がアナウンスする。なんだ、この人が一番僕の好みじゃないか。でもスタッフじゃあ、しょうがないか…… 僕は少し前から気になっていた彼女の顔を見ながら、そんなことを思っていた。
しかし、よーくその彼女の顔を見ていると、どうもどこかで会った事があるような気がしてきた。すると、ますます気になって彼女の顔ばかりを見てしまう。僕の気分はお見合いパーティーどころじゃない。「うん、やっぱり、以前にどこかで会った事があるな。お開きになったら思い切って聞いてみよう」僕はそう決心して、カードには誰の番号も書かずに提出した。
会もお開きになり、僕は彼女に近寄ろうとすると、何と彼女も僕の方に歩み寄ってきた!
「お久しぶり!私のこと覚えてる?参加者リストにあなたの名前が有るからびっくりしちゃった!」 「え?…… も・もしかして、エンジェル?」 「うわー、なつかしい、その呼び名!」
僕はやっと思い出した。中学の同級生でみんなからエンジェルと呼ばれていた彼女のことを。僕らはホテルのバーに場所を替えて、カウンターの隣同士に座った。
僕らのクラスは文化祭で創作劇を披露したことがある。男女が仲違いしているクラスをエンジェルと呼ばれる天使がみんなカップルにしてしまうと言う、今考えると幼稚な内容の劇だった。そのエンジェル役を演じたのが彼女だったのだ。それから、彼女のあだ名はエンジェルになり、みんなからそう呼ばれるようになった。実際に彼女は、世話焼きで、クラスの誰からも愛されていた。そんなエンジェルに僕は密かに思いを寄せていたけど、違う高校に進んでからは、すっかり彼女のことを忘れていた。
「まだ結婚してないんだ。仕事が楽しいの?」
「うん、仕事に夢中になってたらこの歳になっちゃったよ。君は?」
「私もそうね。この仕事楽しくって、またエンジェルしてるよ。自分は独身のくせにね」楽しいと言いながら彼女は少しだけ寂しそうに笑った。中学の思い出話や、仕事の苦労話など話は尽きずあっという間に時は過ぎていった。
「ねえ、私、ずーっと人のエンジェルやってきたじゃない。なんか疲れちゃった、天使も歳をとるのだよ!」少しアルコールが回ってきた彼女。今度は本当に寂しそうに言った。僕はそんな彼女の横顔を見ていたら、中学の時も彼女のこの横顔が大好きだったことを思い出した。僕も少し酔いが回り、酔った勢いって訳じゃ無いけど、素直な気持ちが口をついて出てきた。
「ずーっと、エンジェルやってきて沢山の人を幸せにしたからさあ、神様が君にご褒美くれたんじゃないかなあ?自分で自分のエンジェルもしなさいって。そして、今日、僕とこうして出逢えたんだよ!」 遠回りしたけど、僕はやっと天使に逢えたんだ。 fin
※シェフが投稿しているサイト「超短編小説会」の中で会員同士が同じタイトルを競作しているお話を掲載いたしました。最後まで読んでいただき有難うございます!
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